重要ニュース 「北海道希少野生動植物の保護に関する条例」 (通称「流通規制条例」)の全体像と問題点 |
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2002/1/24北海道新聞朝刊(原文のまま転載) | 関連のウェッブサイト | |
ヒダカソウなど植物12種 保護条例指定を了承 道環境審
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専門家による指定候補種検討委員会が、盗掘などで絶滅の危険性が高く、早急に保護が必要だとして選定した十八種の中から、監視体制が整っているものを選んだ。動物の指定については新年度検討する。 ヒダカソウのはかに指定を受ける植物は次の通り。 ▽キリギシソウ(芦別市キリギシ山) ▽ダイセツヒナオトギリ(上川管内上川町高原温泉) ▽レブンソウ(礼文島) ▽シソバキスミレ(夕張岳) ▽ユウパリコザクラ(夕張岳) ▽ウルップソウ(礼文島) ▽ユウバリソウ(夕張岳) ▽オオヒラウスユキソウ(キリギシ山と大平山) ▽フタナミソウ(礼文島) ▽キバナノアツモリソウ(夕張山系、釧路地方) ▽ヤチラン(網走、根室、後志地方) |
北海道環境生活部環境室自然環境課 の公開ページ 不足する情報は直接行政の窓口に 問い合わせ可能です。 TEL: 011-231-4111(内線)24-394 FAX: 011-232-6790 |
■アルムへは、2002年2月18日付けで、北海道環境生活部環境室・自然環境課野生生物室長名で「北海道希少野生動植物の保護に関する条例」に基ずく「特定希少野生動植物事業登録」関係資料が送付されてきました。資料に添えた文書には、「知事が指定した「指定希少野生動植物」は採取等が禁止され(栽培品は除く)、また「特定希少野生動植物」につきましては、栽培品を販売する場合は、知事への登録が必要となります。
この条例に基づきまして、植物12種を対象として「指定希少野生動植物」及び「特定希少野生動植物」を指定する予定の予告を行いましたので、お知らせしまします。
なお、適用される時期につきましては、3月に本告示を行い、4月から適用する予定(後略)」とあり、上記の新聞記事を見逃していたので、寝耳に水の通告でした。
■条例そのものは平成13年12月1日に施行されたもので、その実現には全日本山草会連絡会北海道ブロックも、盗掘防止と山草園芸への偏った風評を正すために、北海道高山植物盗掘防止ネットワークに参加し、積極的に協力してきました。独自に自然保護会議という内部組織も立ち上げ、長年蓄積した栽培データをもとに、個々の植物についての増殖方法、難易度などの資料「山草栽培テクニカルノート」を作成して行政側に提供してきました。市販品が、盗掘品か生産品か判断するのに役立つ資料の提供は、流通規制を含むこの条例を、園芸界の現状を認識した上で、公正に運用して欲しいという願いがあったからです。
また、園芸関係者の立場から「指定希少野生動植物」(採取禁止)には、できるだけ多くの植物を指定し、厳罰で対処するように要望してきました。多くの植物が健全な生産苗で入手可能なのに、「お土産盗掘」という採集圧をかける行為は、近代的な園芸とは認められないと思うからです。
■しかしながら、今回の指定告示は、園芸関係者の努力を反映するどころか、「指定希少野生動植物」(採取禁止)と「特定希少野生動植物」(流通規制)を単純にリンクさせ、その中に、すでに園芸化している普及種を入れてきました。指定種は年を追って追加される予定で、指定候補種検討委員会が、盗掘などで絶滅の危険性が高く、早急に保護が必要だとして密室で選定したなら、盗掘品が商品として流通しているかどうかの検証が無くても流通規制に踏み切れるのです。
■アルムでは、行政側の担当者から送られてきた前記の資料・文書を熟読し、次の文書を全国の園芸関係者に送りつづけています。これは暫定版で、今後も加筆する予定です。
「北海道希少野生動植物の保護に関する条例」の全体像について
アルム 丹 征昭(札幌市)
2002年2月18日付けで、北海道環境生活部環境室・自然環境課野生生物室長より「北海道希少野生動植物の保護に関する条例」に基ずく「特定希少野生動植物事業登録」関係資料が送付されてきた。これによって条例で流通規制できる特定希少種の当初の種類が明らかになったが、それには専ら種子から量産され、広く流通普及している、いわば大衆種も複数含まれ、対象種の選定が、今日の園芸の生産流通を含めた状況に配慮することなく、偏った視点で行われたことが、読み取れる。
流通規制は、専業の事業者のみならず個人も対象となり、当然、山草会が山草展などで行う格安の苗分譲も対象となる。その影響は、今のところ計り知れないものの、園芸文化に対しては逆風として作用することは確かだ。大衆種を含めることで、「盗掘植物は商品として売られている」という昔ながらの時代錯誤な風評を、行政が追認し、大衆園芸を締めつける結果となり、結果的に園芸を卑しめることにもなりかねない。
園芸植物のマーケットは、日本では欧米とは比較にならない位に発達したが、欧米的な専門ナーセリーの数では立ち遅れており、これからの増加を期待するところだが、この規制は、その芽も摘んでしまうに違いない。
ナーセリーマンの卵は、無数の一般園芸家の中に存在している。私自身がそうであったように、熱心なアマチュア園芸家が、セミプロ的に成長し、プロの園芸家に変身することは、欧米では普通であり、日本でも同様だと思うが、大衆園芸への締め付けは、その道を閉ざしてしまう。
以下に、この関係資料から読み取れる問題点と、個人としての対応を書いたが、園芸関係者各位が、この問題を考える資料になれば嬉しい。
選定指定された種には、何故に流通規制の対象とされたのか、理解に苦しむ種が複数含まれている。フィールドしか知らない人たちが、自生地での個体数減少を、無理やり流通と結びつけ、半ば感情的に特定希少種に指定したとしか思えない。
あまりにも短絡的で、園芸に関わる者には予想もできないような種が選ばれてしまった。その背後には、高山植物は神聖なもので下界に存在することが許せないという感情、ましてやそれが商品として扱われ生産販売されることは絶対に許せないという偏狭な意識が隠されているようにさえ感じてしまう。特定希少種の内容によって、この条例の性格は変わってしまう。いわば大衆種が含まれたことで、当初、園芸関係者が予想していた条例と大きくかけ離れてしまった。これは勝手な思い込みではなく、これまでのプロセスでの行政側の発言の中に、変質を証明する言質が残されている。必要であれば、いちいち列挙できるが、今はしない。
今日の実情にマッチしない種選定を押し付けることで、条例の性格は変質してしまった。その方向性、指針に盛り込まれた精神は歓迎すべきものであったのに、単なる流通規制、それも時代錯誤の「規制のための規制」に堕ちてしまった。
盗掘を抑止するための有効な方策は、生息地での取り締まり以外に見るべきものが無く、その欠落を埋めるために、短絡的に、大衆種を含む強い流通規制に踏み込んだとも受け取れる。
近代的な園芸手法で、それなりの理想を抱き、園芸家として何ら批判されるところも無いはずと、自らを信じて活動している立場で考えると、条例の変質は受け入れられないものである。共に盗掘の抑止に努力してきたのに、いつも間にか、盗掘者同様に監視される側に立たされて、騙まし討ちにあったような感さえ抱いてしまう。
納得のいかない条例で、監視、規制されるのは心苦しく、園芸家としてのプライドが傷ついてしまう。とるべき選択肢は二つ、長いものには巻かれろ的に登録するか、または登録の拒否である。現時点では登録拒否を選択したいと思う。「悪法でも法は法」であり、登録拒否は、対象種の生産販売の中止を意味する。
ゆっくりとした成長サイクルで生きる植物を、産業として育てている側からしてみると、いきなりの選定種の提示は、対応を考える時間も与えない「ごり押し」と映る。数年後までの生産販売を心積もりして、種子をストックし、播種し、幼苗を用意し、次のシーズンの販売苗を仕立て、各段階の植物の在庫がある。各段階は、過去数年分の生産作業の成果である。種子の採取作業を含め、いずれも地道な作業の積み重ねによるものだ。登録拒否は、その積み重ねを無にすることで、すでにできている苗は、非常に無慈悲だが廃棄処分せざるを得ない。生き物を扱う者としての感情は押し殺したとしても、それによる経済的損失は消すことができない。過去の作業の代価を破棄することになるからだ。
今回は、園芸人、業界人としてのプライドを守るために、あえて損な選択をしたいと思うが、特定希少種の指定は、今後、年を追って追加されると聞いている。指定に際しては、対応可能な時間を用意して欲しい。少なくても1年、生産に長いローテーションが要求される種では3年は欲しい。
生産・販売中止を選ぶ業者に、その損失を補償する手立てが講じられるならばともかく、いきなりのごり押しは、行政の横暴以外の何ものでもない。
流通を含め、園芸文化に規制が必要ならば、それは園芸家たち手で方向性を探りたいところで、行政による偏った特定希少種の選定、その押し付けによる流通規制は、大衆園芸に対する締め付け、大衆文化に対する締め付けとなることを関係者には意識していただきたい。
北海道知事宛てに異議申し立てをしました
「特定希少野生動植物」を指定する告示は、園芸家として、一生産者として受け入れ難いものです。
すでに、100%生産苗が流通し、市場の需要を満たしている植物を、生産・流通規制するのは、明らかに偏見による園芸攻撃と思われるからです。たしかに自生地での盗掘は続いているようですが、それはいわゆる「お土産盗掘」で、盗掘されたものが流通するような背景は、現在はありません。
山野草の生産は、そんな安易なものではありません。山草園芸と一般園芸の融合が進んだこともあって、現在は、少しでも安く、均質で丈夫な苗が要求される時代です。20年、30年前であれば、不揃いで弱い山採り由来の苗が売られていましたが、生産苗が大量の需要をカバーすることで、山採り苗は駆逐されてしまいました。山採り苗で需要を満たすことなどは、現在では不可能なことなのです。
残念ながら、行政側からは指定理由も、指定に関わった選定委員のメンバーも明らかにされていませんが、独自の調査で、いわゆる自然保護原理主義の学者が中心となり、生産・流通の実態を無視して選定指定したことが明らかになりました。偏見を根拠に、年度毎に追加指定できる訳で、こんな暴挙は許せません。
しかも、この北海道方式をモデルにして、他の県でも同様の条例制定を準備しているそうです。自生地の保護は条例の性格に馴染むものでしょうが、生産流通規制は全国的な問題であり、この方式が他の県でも模倣されるとしたら、日本の園芸文化に関わる問題になってきます。
一園芸家として、この暴挙と言える告示に対して、北海道知事宛てに「異議申し立て書」を提出しました。また、北海道山草趣味の会(旭川)の村田悠治氏も、当面の登録拒否と、告示に対する異議申し立てをしました。その結果、適用は少しだけ先送りになりました。4月に利害関係者を集めた公聴会が開かれ、8月頃に実施されるようです。