Dianthus 'Inshriach Dazzle

もっと ダイアンサス


Dianthus 'Inshriach Dazzle


小さな庭に向く魅力的な小型種


 ナデシコ属(Dianthus)は、アフリカから欧州を経て極東まで約300種が分布し、大半は多年草で、暑さ寒さに強く病害虫も少なくて、育てやすいものが多い。形態は大型種からマット状になる小型種まであり、花形・花色にもそれなりの変化があって、葉が銀白色の美しい種類もある。園芸的には奥深い魅力を感じさせる属だが、鉢植えでは本来の魅力が発揮されないこともあって、日本の山草家の間ではあまり注目されることがなく、そのため多くの種類・品種の導入普及も実現しなかった。

 英国では、どんな小さな庭にもピンクが植えられているという。

 英国人がそれほどまでに愛着を持ち続けているピンクは、12世紀初頭に、僧院のワインの味付け用ハーブとして、フランスのノルマンジー地方からもたらされたダイアンサス・プルマリウス(タツタナデシコ)がルーツになっているという。このプルマリウスと英国自生種のダイアンサス・カエシウスが交配されて、現在のピンクの祖先が生まれたとされている。

 14世紀ごろからはカーネーションの原種のダイアンサス・カリオフィルスも栽培されるようになって、ピンクもカーネーションも広く愛好されるようになった。ピンクという言葉の由来はヘブライ語、ドイツ語、ケルト語起源の諸説があって判然としないが、18世紀ごろには、その花色からピンクが桃色を意味する言葉にもなった。花弁に濃色の縁取りが入るレイスド・ピンクはそのころすでに愛好されていたらしいが、19世紀に入るとグラスゴー地方の職工の間でレイスド・ピンクの栽培ブームが起こり「オーリキュラ」と同じくフローリスト・フラワーとして育種に拍車がかかったという。

 20世紀の初めには八重咲きのショウ・ピンクが作出されたが、同じころ育種家オールウッドが四季咲きピンクD.× allwoodiiを作り出し、このオールウッディー系が、昔からのガーデン・ピンクやショウ・ピンクの既存品種、更に他の原種ダイアンサスとも交配されて、多様な品種が作出されるようになった。

 英国人がダイアンサス属の栽培にこだわるのは、こうした歴史的な背景があるからだろう。ほとんどの山草ナーセリーのカタログには原種、園芸種のダイアンサスがたくさん載っていて、数の多さではプリムラ属やゲンチアナ属と肩を並べている。たしかに英国人のナデシコ好きは、かなりのものだ。最近は日本でも、こうした原種、園芸種が入手しやすくなってきたが、人気は今ひとつ。もっとダイアンサスに注目してもらえると嬉しい。

数多い魅力的な小型種

 ナデシコ属は生長の早い種類が多く、鉢植えでは根詰まりするため、度々植え替えが必要になる。鉢植えで花後に枯死することが多いのは、根詰まりによる過湿で、根腐れを起こすケースが大半である。山草的な小型種ならば鉢で楽しみたいところだが、ダイアンサス属はたとえ小型種であっても露地植えが理想的で、庭植ならば放任栽培でもよく咲いてくれるし、庭植えでこそ本来の魅力を発揮してくれる。

 ここでは、狭い庭でも楽しめ、今後の普及が期待できる小型種を中心にごく一部を紹介するが、属全体の傾向として過湿を嫌うので、ロッケリーや石垣での栽培が理想的。ごく普通の庭ならば、用土は2〜5mm前後の軽石類の山砂を混入して排水を良くする。


●ディアンツス・アルピヌス(オヤマナデシコ Dianthus alpinus )  アルプス東部の1000m以上の石灰岩地に自生。葉は披針形。高さ5〜15cmで締まったマット状になる。花は桃色だが、帯紫色や淡クリーム、美しい白花の個体('Alba')もある。日本でも古くから栽培されてきたが、欧米では選抜や交配で多品種が作出されている。 Dianthus alpinus

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●デ・アムレンシス(アムールナデシコ D. amurensis)  中国東北部や沿海州の原産。草丈40cm以下で、葉は披針形、花は径約2cm、藤色で中心部に濃色の目がある。山草家によって戦前からの保存系統が栽培されていたが、最近はあまり見かけない。  
●デ・アレナリウス(D.arenarius)  欧州北部原産。マット状だが、花茎は高さ約30cm。花は径2cm、白色で中心部は薄紫色。芳香性。  
●デ・アルパディアヌス(D. arpadianus)  トルコ、ギリシャ原産。丈5〜8cm、葉は線形でごく短く、密なドーム状。小輪(径0.7cm)の桃色の花が群開する。コケマンテマ(Silene acaulis)を思わせる姿が面白い。  
●ダイアンサス・アルベルネンシス  フランス産のグラティアノポリタヌス種の自生地で稀に見られる自然交雑種。丈10cm。灰緑色の針葉で、締まったマット。ピンク花。  
●デ・デルトイデス(ヒメナデシコ D.deltoides)  欧州北部原産で匍匐性マット状。生育旺盛で、すぐに大きなマットになり、グランドカバーにも向くが、小さな庭では手に負えなくなることもある。丈15cm、葉は線形、花は淡紅〜紅紫で径約1.5cm、中心部に蛇の目模様がある。品種に白花のAlbus、赤花の「スプレンデンス」'Splendens'、鮮やかな濃紅紫の‘Brilliant'などがある。  
●デ・フレイニイ(D. freynii) ブルガリア〜ユーゴに産し、草丈5cm、氷河ナデシコ(D. gracialis)に似るが、葉は灰緑色で観賞的。  
●デ・グラキアリス(氷河ナデシコ D. gracialis)  アルプス、カルパチア原産の代表的な小形種。草丈は約5cmでマット状、葉は線形、花は赤紫色で径約1.5cm。亜種ゲリヅス(ssp. gelidus)は母種より大輪濃色で観賞価値が高い。  
●ホタルナデシコ(デ・クナツピー D.knapii)  ユーゴ西部原産で、丈は35cm、花は径1.5cm。草姿が乱れるのが欠点だが、この属には珍しい鮮黄色で、黄花のピンクの交配に使われた。黄花小型種の作出が期待される。  
●デ・パボニウス(D. pavonius)別名D.ネグレクツス。  アルプス南西部の礫地や草地に産し、丈5〜10cmのマット状。葉は線形で三本の脈が有り、花は大輪で夏咲き、径2〜2.4cm。赤桃〜パステルピンクで中心が黒っぽい暗色。近似種のロイシー(D.roysii)はオヤマナデシコとの交雑種と考えられ、桃色で裏面は淡黄色。 画像を開く

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●東独ナデシコ「ベルリンスノー」(D. sp. ' Berlin Snow')  旧東ドイツより英国に導入され、当初はD. sp.D.D.Rの名で栽培されていた。丈10cmの密なマット状。白花で花弁は深く切れ込み、繊細で美しい。セルフ実生でも、すべて同じ形態で、原種と思われる。 画像を開く

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●デ・ミクロレピス(D. microlepis)  バルカン半島の高山帯に産し、丈は5cm以下、葉は長さ1cmの線形で固く締まったマット状になる。花は径1.2cmの桃色で、いかにも高山種らしい可憐な種だが、暖地での栽培は難しい。     

 変種または独立種に扱われることもある旧ユーゴ産のミクロレピス・ムサラエ(D. microlepis v. musalae)は美しいローズピンクの花で、ミクロレピスでは最も多花性。丈5cm。亜種デゲニイ(ssp. degenii)や選抜品種'Rivendell'や'Leuchtkugel'も、山草家には魅力的な存在。

 

 

小型の園芸品種

 数多くの品種が作出されているが、生株での導入が不可欠なので、日本で普及している品種は限られている。英国伝統のショウ・ピンクやレイスド・ピンクと同様のイメージで育種された結果、八重咲き品種や、花弁に縁取りやスポットなどが入る品種など、原種にはない多様な花が生まれている。

●「オールウツディー」(D.× allwoodii)  タツタナデシコとカーネーションなどの交配で、今世紀初めに作出された。丈25〜40cm。花期が長く香りがよい。この品種とオヤマナデシコとの交配品デ・オールウッディー・アルピヌス(D.× allwoodii 'Alpinus')は丈15cm程で、濃色の大きな目、灰緑色の葉。  
●「ブルーヒルズ」('Blue Hills')  青味がある美しい銀葉で、丈10cm。花は鮮やかなローズレッド。超強健種で、日本では急速に普及している。  
●「ボイデイ」(D.alpinus × Boydii)  アルピヌスとカリゾヌスの交配。濃緑の葉で、中心に赤い目があるピンクの花。 丈15cm。非常に強健。  
●「ラ・ボーブール」('La Bourboule')  デ・グラティアノポリターヌスから作出された小型で山草的な品種。草丈約10cm、鮮桃色。白花('Alba')もある。 画像を一覧で見る 
●「インシリアック ダズラー」('Inshriach Dazzler')  D.パボニウスの交配で、丈10cm。葉はドーム状に密生、花は鮮やかな濃紅色で黒い目があり、非常に人目を惹く。 画像を開く
●「ナイウッズクリーム」('Nyewood's Cream')  葉は灰緑色でマット状、丈10cm。珍しいクリーム色の花で、後に淡いピンクに変化する。 画像を開く

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●「ハイランドフレザー」 銀色の葉で、濃赤の風変わりな斑紋が入るピンク花。丈10cm。非常に個性的。やや感じが似て、比較的に普及している品種に「スポッテイ」などがある。  
●「リトルジョック」  美しい銀色の葉で、丈15cm程。花はピンクで、半八重咲き。庭植えに良い。  
●「パイクスピンク」
('Pikes Pink')
丈15cm程の美しい銀葉で、ピンクの八重咲き。英国では庭植えされる人気の品種。
●クモイナデシコ「くれない」(D. superbus v. amoenus Hyb. 'Kurenai')  日本にも産するタカネナデシコ系の種は花形が個性的なのだが、なぜか交配は進んでいない。この品種はアルムの圃場で選抜したオリジナルで、花形はクモイナデシコの特徴を残し、花色が濃いクリムソンレッドの個性的な新花。 画像を開く
●「ピクシイ」 美しい銀葉のマットで、丈5cm。ローズピンクの花を群開する。  
●その他 「ホワイトヒルズ」など、小型の魅力的な園芸品種は多数ある。  

アルムで入手できる種類はオンラインリストをご覧下さい

鉢栽培にこだわるなら
 庭植ならば放任栽培でもよく育つが、鉢栽培にこだわる山草愛好家や、ベランダガーデナーも少なくない。ダイアンサスは他の山草に比べると生育旺盛で、鉢植えでは、すぐに根詰まりするため、度々植え替えが必要になる。鉢植えで花後に枯死することが多いのは、根詰まりによる過湿で、根腐れを起こすケースが大半。幾つかのポイントに注意すれば、鉢での栽培も難しくはない。
  • なるべく大きな鉢で育てる 

 草丈の低い小型種は、ともすると浅鉢や小さな鉢に植えたくなるが、たとえ小型種でも、根張りは意外に深く大きい。小さな鉢では花後の成長期に根詰まりしてしまう。観賞上は不釣合いでも大きな鉢に植えよう。

  • 春一番に必ず植え替える

 ダイアンサスは、あまり植え替えを好まないが、鉢植えでは植え替えが必要。冬が過ぎて、また成長が始まる春の早い時期に、もっと大きな鉢に植え替える。この時期であれば、根は多少切り詰めることも可能。根を切った分だけ、地上部もカットしてバランスをとる。適期以外の時期に根詰まりに気づいたら、根を痛めないように鉢を緩める。

  • 株分けはしない

植え替えを好まないので、株分けも嫌う。無理な株分けは枯死の原因となる。増やすには挿し芽が良く、春から花後までが挿し芽の適期。

  • 用土

用土は2〜5mm前後の軽石系の山砂単用。暑い地方ほど粗い粒を使う。鉢の表面に大粒の礫をトッピングすると長雨対策になる。

  • 肥料

有機質肥料よりも、マグアンプKなどの長く効く化成肥料が良い。春の植え替えの時に、元肥として一度だけ与える。

  • 病害虫

花芽形成期に芯食い虫に食害されることがある。早めにオルトランなどを散布すると予防できる。


31/Jan/01

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