【受注・発送と苗についての質問とその回答】
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かつてはマニアックな園芸だった山草栽培。その裾野が広がることは喜ぶべきですが、反面、予想外の質問やクレームを受けて戸惑うことがあります。耐寒性がある山野草は、一部の常緑の木本植物や、秋に出葉するフユノハナワラビ、ムスカリ、コリダリス・フレクスオーサのような例外はあるものの、殆どは、冬が近づくと地上部は枯れて休眠に入る夏緑性植物です。
昔から秋に山野草の通販が行われていたのは、この時期であれば輸送中に茎葉がダメージを受けても、植物にはダメージにならないからです。大型植物の場合は、翌年の芽が充実し、茎を選定しても問題ない場合は、荷造りの都合で剪定することもありますが、多くは枯れ始めた茎葉をそのまま残して発送します。発送に際しては、苗の状態をチェックしています。地上部が紅葉していたり枯れかかっていたりしても、季節変化によるもので苗としては問題ありません。 |
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【栽培についての質問とアドバイス】
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比較的に多い質問で、返答に戸惑うパターンがあります。「〇〇〇を購入したいと思いますが、〇〇県〇〇市で育つでしょうか」という質問のパターンです。〇〇県〇〇市に住んだ経験が無いと、その地方の気候条件が判りません。同じ地方でも、庭の環境条件や、潅水などを含めた栽培手法の違いで、生育には差が出ます。大半のメコノプシス属のごとく「北海道と東北の一部以外では高冷地でなければ栽培不可能」といった明確な返答が出せる植物は、多くの栽培対象の中で非常に限られてきます。
つまり、いろいろな条件が加味されるので「うまく育てている人もいるが、どのように試みても育たない人(環境)もいる」というのが正解です。もし近所に山草栽培の経験者がいたら、訊いてみるのが一番良い判断基準になります。
今は山草栽培書が豊富に出版されているので、それらの書籍や雑誌を参考にするのも良い方法です。山草栽培書の執筆者は、関東や関西での栽培を基準に執筆していますので、気候が異なる地方では、栽培書はあくまでも目安を示している程度に考えてください。近年発行の写真集的な栽培書には、「栽培は〇〇に準ずる」と片付けている例が見られます。同じ属の植物でも性質が異なるのが普通なので、こんな本は写真集として捉えるのが妥当です。
古い本の一節に、こんな文章があります。
「山草の栽培には、他の草花のように一定の公式がない。山草がヒマワリのようにつくれたら、この世界もそう面白くもないだろう。つまり、公式がないというのが、山草栽培の魅力のひとつでもあるわけだ。山草は全国的に統一された栽培法がないので、個々の栽培については、技術と環境の優劣によって、栽培者自身が考えていかねばならない。それらは、かなりデリケートな部分なので、第三者である著者が、個人の技量と環境のいろいろをどうこうすることはできない。したがって、書籍における栽培法というものは、すべて単なる手がかりにしかすぎす、「ある地方のある人の家では、この環境でこうしてできた」と報告しているという程度にとらえておいた方が無難で、山草栽培書に過大な期待を寄せるのは、危険な賭けだというくらいに思っていればよい」
「洋種山草事典」森和男著(1983、月刊さつき研究社発行)。
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【山野草の実生について、質問とその答え】
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実生のノウハウについては、栽培のノウハウ以上に、感に頼る部分が多く説明が困難です。いろいろな手法が山草栽培書に紹介されていますので、先ずは、それを参考にして下さい。
以下も古い本の一節です。
「播種ほどおもしろいものはない。ゴマ粒というかケシ粒といおうか、まったく吹けば飛ぶようなゴミの如きものを播いておくと、やがて浅い緑色になり、小さな葉がいっせいに地上に顔を出す。もこもこと播き床の用土をもち上げて子葉を出す様子はまだ見たこともないが、一度ヒマなときに見たいと思っている。 − やっと手に入った貴重な種子が発芽しているのを見つけたときの喜びは、近所中、わめきながら走り回りたいくらいのものである。少なくとも家の中では走り回って喜んでいる。
しかし、それは幸運な例であって、貴重な種子の多くは不思議と発芽しない。そう簡単に発芽して殖えたりしないことが貴重さの所以かもしれないが、数年挑戦してもいまだに発芽したためしのないものもある。キンセンカやマツバボタンのように、播けば必ず発芽するとは思わないほうがいい。播いた種は必ず発芽するなどと考えるのは空恐しいことである。」
「洋種山草」森和男著(1981、保育社カラーブックス)
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